水素原子の「電子軌道」の波動関数,シュレディンガー方程式の解

D.関数Θ(ルジャンドル陪関数)


関数Θ(θ)の式(B-2)を解きます。
再掲


最初に関数と変数を次のように置き換えます。

また次のようになります。

これらを代入すると次のようになります。

整理すると次のようになります。

書き換えると次のように表せます。

常微分の公式により展開すると次のように表せます。

これはルジャンドルの陪微分方程式( Legendre Associated Differential Equation )と呼ばれます。


上式はルジャンドルの微分方程式( Legendre Differential Equation )です。

このルジャンドルの微分方程式は、応用常微分方程式の本に大変詳しく載っています。

このルジャンドルの微分方程式は、特殊関数の重要な1つです。今回は、ルジャンドルの陪微分方程式を、級数を使った数学的帰納法で解いていきます。


関数P(z)を、初項がゼロでないベキ級数の関数に置き換えます。

G(z)は次のようにおいています。

G(z)は展開すると次のようになります。


以下、G(z)を求めていきます。

式(D-6)を式(D-5)へ、さらに式(D-4)へ代入して、漸化式を求めます。
式(D-6)は展開すると次のようになります。

式(D-5)のP(z)をzで微分すると次のようになります。

zでもう一度微分すると次のようになります。


G(z)は次のようにおいています。
再掲

G(z)をz微分すると次のようになります。ここではG'と略記します。

zもう一度微分すると次のようになります。ここではG''と略記します。


式(D-9)と式(D-10)を代入すると、式(D-7)と式(D-8) は次のようになります。



式(D-11)と式(D-12)の微分演算子部分を求めます。

式(D-13)を、zでもう一度微分すると次のようになります。

ここの第2項の微分部分だけ求めます。

これを代入すると次のようになります。


再掲

式(D-13)と式(D-14)を、式(D-11)に代入すると次のようになります。


再掲

式(D-13)と式(D-14)を、式(D-12)に代入すると次のようになります。


再掲

式(D-15)と式(D-16)を、式(D-4)に代入します。
(1-z^2)^(|m|/2)で割ります。

第1項を(1-z^2)で整理します。
整理します。

さらに整理します。

さらに整理していきます。



式(D-17)のG、G’、 G’’に、それぞれ式(D-6)、式(D-9)、式(D-10)を代入します。

整理していきます。

さらに整理していきます。


ここでz^νの係数だけをピックアップしてみる。

第1項はν=ν+2とおけばz^νとなる。z^νの係数は次のようになります。

第2項はν=νとおけばz^νとなる。z^νの係数は次のようになります。

第3項はν=νとおけばz^νとなる。z^νの係数は次のようになります。

第4項はν=νとおけばz^νとなる。z^νの係数は次のようになります。


z^ν乗で無限級数を書き替えます。

この級数をzの累乗別に展開すると次のようになります。

一般項の係数は次のようになります。これはν=0、ν=1の時も成立します。

zにかかわらず式(D-19)の左辺が0になるためには、zの各次数の係数がそれぞれ全て0でなければならない。次の式が得られます。

次のような漸化式が得られます。


この漸化式は、νが偶数と奇数の場合で分けて求めなければなりません。しかし式(D-21)は偶数・奇数の両方で成立します。

解法上、まず式(D-21)を偶数・奇数共通で解いていきます。その後、偶数と奇数を分離します。

――――――――――――――――

まず関数の極限を考えます。ここまでのG(z)は発散します。そのためP(z)も発散します。しかし波動関数としてのP(z)は有限な解しか受け入れられません。 波動関数としてのP(z)を受け入れ可能とするためには、級数を有限な項数とする必要があります。

そこで任意のν’で、式(D-21)の「漸化式の分子」を0にします。

ν’=ℓ -|m|となり、次のように以降の係数は全て0となります。

式(D-21)漸化式でν’=ℓ -|m|としたので、G(z)は最高次数z^(ℓ -|m|)、最高次数の係数aν’=aℓ-|m|の有限な項数の級数になり収束します。そしてP(z)も収束します。

この有限な項数の級数G(z)を、数学的帰納法により求めます。

式(D-21)漸化式で、ν→ν’-2と置き換えると次のようになります。

さらにν’=ℓ-|m|で書き替えると次のようになります。

(i)最初に、最高次数z^(ℓ -|m|)の係数aℓ-|m|を+1とおきます。


数学的帰納法により一般項は次のように求まります。






偶数と奇数に分けます。

ℓ -|m|が偶数(even)の級数をGeven(z)、ℓ -|m|が奇数(odd) の級数をGodd(z)と略記すると、それぞれの級数は次のように表わすことができます。

(i-a) ℓ -|m|が偶数(even)
末項は最低次数z^0で、その係数a0。末項ではℓ -|m|-2k=0となり末項の数字は次のようになります。

そして級数は次のようになります。


(i-b) ℓ -|m|が奇数(odd)

末項は最低次数z^1で、その係数a1。末項ではℓ -|m|-2k=1となり末項の数字は次のようになります。
そして級数は次のようになります。



(ii) P(z)に代入し、
最高次数の係数を(2ℓ)! /{2(^ℓ)ℓ! (ℓ-|m|)!}へ
再掲

式(D-5)に代入します。
最終的に最高次数の係数を(2l)!/{2ll! (l-|m|)!}とした、l次|m|階のルジャンドル陪関数を得ます。

規格化されていないθの波動関数Θ(θ)=P(z)が、次のように得られます。

(ii-a) ℓ -|m|が偶数(even)

(ii-b) ℓ -|m|が奇数(odd)



(D-23)と(D-24)式から、突然(D-30)と(D-31)式が導出され分かり難いというご質問を多々いただきました。
下記のPDFに、この部分の省略している途中計算を追加しましたので、ご覧ください。
add.pdf


規格化された波動関数Θ(θ)

関数Θ(θ)の規格化の式は次のものです。
再掲

Θ(θ)は実数の関数でありΘ(θ) =Θ*(θ)である。ゆえに次のように簡略化できます。
  
Θ(θ)=P(z), z=cosθとおいているので次のようになります。

代入すると、規格化の式は次のように変数変換されます。

ここでθの関数の規格化定数Nを追加し、規格化されたθの関数Θ(θ)を次のようにおきます。
  規格化の式に代入すると次のようになります。


整理すると次のようになります。


ℓ=ℓ’のときℓ次|m|階のルジャンドルの陪関数は次のような関係が知られています。 応用常微分方程式の成書には必ず載っています。


式(D-32)に代入すると次のようになります。

整理すると次のようになります。

ここでは規格化定数として次を採用します。

ゆえに規格化されたの波動関数Θ(θ)は、次のようになります。
  

最終的に、最高次数の係数を(2ℓ)! /{2(^ℓ)ℓ! (ℓ-|m|)!}としたℓ次|m|階のルジャンドルの陪多項式を代入すると、規格化された波動関数Θ(θ)が次のように得られます。

ℓ+|m|が偶数(even):z=cosθ


ℓ+|m|が奇数(odd):z=cosθ




製本版をamazon.co.jpのPODで出版しました。
量子力学入門 水素原子の電子軌道 : シュレディンガー波動方程式 (改訂)
ここでは掲載できなかったルジャンドル(Legendre)の規格化定数(normalization constant)を、
付録Ⅰ. 関数Θの規格化」 (pp147-158) に掲載しています。
 ISBN
 9784802095792
 

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